現金を相続したら?注意点と遺産分割の方法を把握しておこう

被相続人がしていたタンス預金が見つかると、「こんなに現金があったなんて!申告は?どう分ける?」など、相続後に慌てる方も少なくありません。相続では相続人の確認と共に、被相続人の財産の把握を行いますが、現金は身近な一方取り扱いに悩む財産でもあります。

現金の特性を理解したうえで、遺言書がない場合は相続人で遺産分割を行います。現金は便利な面もありますが、まだ相続が始まっていない場合は、現金のデメリットを知って節税対策を行うのも方法の1つです。

今回は相続における現金の特性・注意点について、また遺産分割の方法と節税に関してご紹介します。

現金が見つかった!相続における取扱と注意点とは?

相続が開始されると、相続人の確認と共に被相続人の全ての財産の把握を行います。預金や不動産の他にも、借入などの債務を財産目録に記入しますが、中でも現金が発見された時は扱いに戸惑う方も多いのではないでしょうか。

出来心で「現金だし、黙っていたら隠せるのでは?」と考えてしまいそうなものですが、遺産隠しは税務署が見つける可能性も高く、もしもの場合は大きなペナルティーが課せられます。まずは、現金の相続について知っておきたい、重加算と現金の特性に関して見ていきましょう。

もしも故意に現金を隠したら?

税務署は所得を管理しているため、個人の年収を把握しています。その為、算出した資産の把握から相続税額との大幅な隔たりがあった場合、税務調査の追求にあう可能性が考えられます。もし、相続税の隠蔽が見つかった場合、ペナルティとして以下のことが起こりえます。

加算税が発生する
間違って少なく申告した場合や、故意に遺産を隠していたことが発覚した場合は加算税が発生します。その他、相続税の納税が遅れた際は延滞税・申告期限内ではあるが少なく申告した場合には過少申告加算税・申告漏れをした際は無申告加算税が税務署から課せられます。

故意に遺産を隠蔽して申告したり偽装した場合は、重加算税という高額なペナルティーが課せられます。財産を隠したり偽装して申告した場合は、過少申告加算税に変わり相続税総額の35%が加算されます。

税務署への申告を行わずに財産の隠蔽や偽装をした場合には、無申告加算税に変わり40%が加算されます。

生前対策や控除の申請を行う
まだ相続が開始していないのであれば、節税対策を行う手段もありますし、発生している場合でも控除により相続税の減税が可能になリます。相続税の控除に関して、また節税対策については「現金の節税対策と控除の制度」の章でご紹介します。

故意に隠そうとしたのではなく、遺産分割後に現金が発見されることも考えられます。資産を現金で身内に残したいと考える場合には、もしもの前に相続人へ把握出来るよう伝えておくことも方法の一つです。

預金と現金の特性の違い

相続財産である預金と現金は、同じお金と捉えてしまいそうですが、法律上は特性が異なる財産であると考えられています。

預貯金は、銀行等の金融機関に対して払い戻しを請求できる権利を持っている、金銭債権です。

相続財産の中には、不動産や株式等の分割協議をしなければ分けることの出来ないものと、借入金などの分割協議をせずに相続分に応じて当然分割されるものがあります。以前は預金は債務であり、当然分割されるものと判断されていました。

しかし、平成28年12月の判例では、預金を遺産分割の対象となると判断しました。今後は遺産分割の対象となると予想され、遺産分割をしなければ口座からの払い戻しなどの相続手続きは出来ないと考えられます。

一方、現金は、法定相続分に応じて当然に分割されるものではなく、遺産分割によって初めて分けられるものと従来から判例がでています。現金は金銭ではありますが、債権ではなく動産であると考えられている為ではないでしょうか。

現金は従来から遺産分割が必要な財産であるため、現金が見つかった場合で遺言書のないケースでは、相続人による遺産分割を行う必要があります。

遺言書の種類と遺産分割の4つの方法

現金や預貯金の他にも、不動産や株式などのプラスの財産から、債務のようなマイナスの財産を含めて全ての財産を把握します。相続人の確認と財産の把握を行ったのち、相続人による遺産分割を行います。

遺産分割に期限はありませんが、相続税の納税には期限が決まっていますし、預金などの払い戻しの際は遺産分割協議書の提出を求められます。ここでは、遺言書の種類と遺産分割の方法を見ていきましょう。

遺言書の確認を行う

遺産分割とは、各相続人がどの財産をどのような割合で分配するのかを決めることです。遺言書がある場合には、原則として遺言の内容が優先されるので、遺産分割の前に遺言書の有無を確認します。

法的に力のある遺言書にはいくつか種類があり、普通方式と呼ばれる遺言書には3つの種類があります。

①実筆証書遺言…遺言者によって、全文・日付・氏名を実筆により書いて印をした遺言書。
②公正証書遺言…公証役場にて遺言者が公証人に遺言内容を伝えて作成してもらい、原本を公証役場で保管してもらう遺言。
③秘密証書遺言…遺言内容を知られたくない場合に、遺言の内容を特定の人物に証明してもらいながら、内容を秘密にすることが可能な遺言書。

それぞれの遺言書の種類によって、メリット・デメリットがあります。ご自身が亡くなった後に身内の方によるトラブルを防ぐためにも、生前から遺言書を残す方や遺言書の残し方に関する書籍なども出版されています。

どの遺言書であったとしても、法で決められた要件を満たしていた場合は、遺言書による相続が優先されます。

遺産分割の4つの方法

遺言書が無い場合は、相続人によって遺産分割を行います。遺産分割には①現物分割②換価分割③代償分割④共有分割の4つの方法があります。

現物分割
各相続人が現物ごとに財産を相続する方法を現物分割と呼びます。例えば被相続人である父の財産を、妻は預貯金と世田谷の自宅を・長男には横浜のアパートを・長女には株式と現金を、といった具合に現物ごとに財産を相続する人を決める方法です。

換価(かんか)分割
建物や土地などの金銭以外の財産を売却して現金にして、金銭を分ける方法を換価分割と呼びます。現物で分けるよりも公平に分けることができる一方で、所有権を移したり売却を行うため、譲渡所得税が課せられるため確認が必要です。

代償分割
一部の相続人が不動産などの現物財産を相続して、現物財産を受け継いだ相続人がその他の相続人に、代償として自分の財産を支払うことを代償分割と呼びます。

共有分割
建物や土地などの財産の一部又は全てを、相続人全員で持ち分を決めて共有する方法を、共有分割と呼びます。主に共有分割は現物分割・換価分割・代償分割では合意出来なかった場合に行う方法です。建物の売却や解体の際には共有している全員の合意が必要となる為、どこかの段階で共有分割を終える必要があります。

相続人・相続財産・遺言書の確認を行ったのち、遺産分割の方法を決めて遺産分割協議を行います。各相続人が財産をどのような割合でどう分けるかを話し合い、遺産分割協議書を作成します。

遺産分割協議で意見がまとまらなかった場合には、家庭裁判所で審判や調停を受けることも可能です。

現金の節税対策と控除の制度

「現金が一番安心できるから」と身内の方で沢山のタンス貯金をしているのを発見した場合、相続税の不安を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

相続税は全ての人が支払うものではなく、正味の遺産額が一定の金額を超えていた場合のみ、相続税が発生します。もし一定の金額を超えていた場合でも、申請を行えば相続税額から差し引くことが可能な控除があります。

また、相続が始まっていない場合には、現金の節税対策を行うことも出来ます。相続税における基礎控除と税制控除の内容・現金の節税対策の一例を見ていきましょう。

基礎控除と税額控除

相続する財産が一定の金額を超えていた場合、申告及び相続税を収める決まりがあり、この一定の金額のことを基礎控除額と呼びます。基礎控除額は、法定相続人(民法によって定められた相続人)の人数によって計算が可能です。

基礎控除額の計算
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)=相続税の基礎控除額

例えば、法定相続人が3人だった場合は、相続財産が4,800万円を超えなければ相続税はかからないという事ですね。基礎控除額についてはこちらの記事で詳しく説明しているので、宜しければ参考にして下さい。

税額控除
もし基礎控除額を超えていたとしても、相続税の計算をした後に相続人の税額から控除することが可能です。相続における税額控除としては、次のようなものが挙げられます。

・配偶者の税額軽減
・未成年者控除
・障害者控除

上記以外にも贈与税額控除や相次相続控除などもあります。例えば、配偶者の税額軽減では1億6,000万円までは相続税がかからない制度が設けられています。もし相続税が課せられず申請の必要がなかったとしても、控除は申請を行わなければ受けることが出来ません。基礎控除額を超えてしまいそうな場合には、各相続人の相続計算と共に税額控除の確認をお薦めします。

現金は安心?不動産の節税対策

相続税は通常、現金で一括で支払うことが決められています。特例として物納という方法もありますが、特別な納付方法であり制度の活用には様々な要件が設けられています。

そのため、現金を相続すると安心だと感じる反面、相続においては損をしてしまう可能性もあります。財産は現金の他にも、不動産や家財道具・株や自動車など様々な財産があります。相続税の計算においては、様々な種類の財産を売りに出した場合、幾らで売れるのかを見積もる「時価」で評価するという作業を行います。

不動産の評価においては方法と基準が決まっており、土地の場合は路線価等を基に・建物は固定資産税評価額を基に評価を行います。例えば、売買価格が1,000万円の土地を持っているaさんと、現金を1,000万円持っているbさんがいるとします。

相続税の計算では、bさんの現金はそのまま1,000万円で評価されますが、aさんの土地が路面価による評価が8割の計算だった場合は800万円で評価します。現金と不動産では相続税の評価額に差がでてくるのです。貸家などの場合には、さらに相続税の評価が下がります。

そのため、現金で残しておくよりも土地や建物を買ったり、賃貸用のマンションやアパートを購入するという節税対策が考えられます。

不動産のデメリットとしては、流動性が高く簡単にお金には変えられない点が挙げられます。また、購入物件に貸し手が付かずに、却って維持費や修繕費がついてしまうことも考えられます。現金に限らず節税対策には様々な決まりがあるので、節税を考えた際はまずは知識を付けた上で、専門家に相談することも方法の一つです。

まとめ

相続における現金の特性について、また遺産分割の方法と節税に関してご紹介しました。現金は隠しておいても調査によって明らかになってしまいますし、ペナルティーとしての重課税も大きく定められています。

生前の節税対策を行うことや、相続が始まっていて相続税が発生する場合には、税額控除が受けられるかどうかを確認しましょう。

相続が発生したら、現金を含めた全ての財産の把握や遺言書の確認を行い、遺産分割を行います。遺産分割には種類があるため、相続人全員が納得出来る方法を選びたいですね。