気に入ってて住み慣れている家なのに、「取り壊すから出て行って」と言われたら?
賃貸物件などでは、あくまで家は借りているわけですから理屈は理解できても、中々すんなり「はい」とは言い難いですよね。
貸主としっかり話し合って、納得の上、できれば新居のための立ち退き料をいただいてから引き渡しに応じたいところです。
そこで本記事では、貸主から立ち退きを依頼された際にすべき事や立ち退き料の相場・交渉方法についてご紹介します。ぜひ、お役に立てれば幸いです。
立ち退きの通達が届いたら正当な理由があるか確認
立ち退きの通達がポストに投函されていたら、焦ってしまうかもしれませんが、まずは冷静に立ち退きをしなければいけない理由を確認しましょう。
現在、日本では借地借家法という家を借りて住んでいる人を守るための法律があり、原則として立ち退きの依頼は、正当な理由がない限り認められていません。
この正当な理由とは、立ち退きの要求に値する理由のことですが、正当な理由があるかどうかは、主に下記の4つを総合的に見て裁判所が判断しています。
貸主と借主のどちらがよりその建物を必要としているか
その建物がより必要な人は、家を貸した貸主と家を借りている借主であるあなたのどちらでしょうか?裁判所では、より必要としている比重の大きいほうの意見を考慮しています。
下記は、貸主と借主、それぞれで考えられる事情の一例です。
貸主 | 借主 |
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高齢になって、その家に住まないと生活に支障をきたす恐れがある。生活に困窮して、その家や土地を売却しなくてはいけなくなった。 | 長くその家に住んでおり、他の住宅に引っ越す場合、賃貸料が明らかに増え生活が難しい。同居人や自分自身が病気で、引っ越すにはかなりの精神的、身体的負担がある。 |
賃貸借契約が妥当か不当か
賃貸借契約とは、貸主が借主(あなた)に家を貸す代わりに、賃料をもらうために交わす契約書のことです。裁判所では、賃貸借契約に記載された賃料は、貸主が利益を得るのに妥当な金額か、貸主が損をしていないかといったことが確認されます。
例えば、長期に渡り賃料が明らかに安い場合や、借主が賃料を払っていないなどで貸主の信頼関係を失ってしまった場合、大半は貸主側に立ち退きに対して正当な理由があると判断されます。
借主はどのくらいその家を日常的に利用しているか
その家を借主があまり使用していなかったり、賃貸物件の場合は勝手に改装してしまっていたりした場合は、貸主側に正当な理由があると判断されることが多いです。
建物が危険な状態かそうでないか
今後も住んでいくにあたり建物の状態が安全かどうかが、正当事由に当たるかの1つの基準になります。立ち退き理由では、「建物の老朽化などが原因で現在の耐震基準に満たないから、立ち退いてほしい」と言われるケースが増えています。
日本では、1981年に建築基準法が改正されました。これは、耐震基準の最低基準を定めた法律です。つまり、1981年以降に建てられた建物は、「現在の耐震基準の最低基準を満たした上で建設されている」ことになります。
反対に1981年以前に建てられた建物は、旧耐震基準法に沿って建てられているので、現在の耐震基準に照らし合わせると、「耐震性が十分に満たされていない可能性が高い」ということです。
現在の建築基準法による耐震基準は、一般的に「震度6強以上の震度に耐えられる建物かどうか」が基準と言われています。
ただし、1981年以前に建てられた建物であっても当時の基準より頑丈に建てられた建物もあるため、「危険な建物である」とは言い切れません。そのため、耐震性が十分にあるかどうかは、建築士などが耐震診断を行った上で判断します。
家屋の老朽化などが理由で立ち退きを依頼された場合は、耐震診断を行ったかどうか大家さんに確認してみることをおすすめします。
正当な理由が弱ければ、立ち退き料はもらえる
上記のような「耐震基準を満たしていないから」などの理由だけでは、通常は正当な理由があるとは認められません。
借主のあなたにとっては少し有利とも言えますが、現在の日本では、借主を守るためのルールとして「借地借家法」があり、この法律が立ち退きの保護に非常に強い効力を発揮しています。
そして、この借地借家法の第二十八条では、財産上の給付も正当理由があるかの判断材料である旨が記載されています。
この財産上の給付とは立ち退き料のことですが、法律上、「耐震基準を満たしていないから」などの理由では正当理由としては弱く、立ち退き料の支払いを求められるケースが多いです。
つまり、借主がそこに住む必要があるにも関わらず立ち退きをしなければならない場合は、立ち退き料として金銭的補助をしないと「正当な理由とは認めない」と判断される場合が多いということです。
ただし、賃貸借契約の更新をしていないなどで借主に契約違反などの重大な過失があった場合は、立ち退き料はもらえません。
法律上借主は強く守られているため、基本的に借主に重大な過失がなかった場合は「立ち退き料はもらえる」と判断してよいでしょう。
裁判例で見ると立ち退き料は100万円~200万円が相場
立ち退き料の相場は、家賃6ヶ月分などと言われていますが、基本的には決まっていません。
仮に立ち退き料がなかったり、少なかったりした場合でも、あなたが了承していたのであれば賃主は立ち退き料を払う必要はありませんし、貸主に正当な理由がどのくらいあるかでも立ち退き料が変わってくるからです。
ですが、裁判所の過去の判例を見ると、賃料5万円~10万円ほどの老朽化した建物であれば立ち退き料は、100万円~200万円と判断されている例が多いです。下記では、立ち退き料の判例について一例を挙げて解説します。
参考 立ち退き料の相場はどのくらい?4つのケースに分けて詳しく解説咲くやこの花法律事務所
立退料200万円と判断された事例1
以下は、平成29年1月17日に東京地方裁判所が、賃料7万4,000円のアパートの立ち退きに対して、立退料200万円と判断した事例です。
貸主の言い分 | 築44年を経過して修繕工事が多発している。他の住居人は、既に全員退去予定。 |
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借主の言い分 | うつ病を発症しており、転居に負担がかかる。すぐに解体しなければいけないほどの老朽化ではない。近隣に転居の場合、現在の家賃より賃料が上がる。 |
裁判所の判決 | 貸主は立退料200万円を払うこと、借主は立ち退き料200万円と引き換えに退去に応じること。 |
なお、立ち退き料200万円の金額の根拠については、特に言及されることはありませんでした。
立退料200万円と判断された事例2
平成28年7月14日に東京地方裁判所が判決した事例では、賃料7万3,000円のマンションの立ち退きに対して立退料200万円と判断されました。
貸主の言い分 | 高齢で自分自身介護が必要。身内と同居するために、貸し出した物件を利用しないといけない。 |
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借主の言い分 | 現在癌の治療中で、転居に負担がかかる。近隣で、現在の水準と同じような物件に転居する場合、賃料が上がる。 |
裁判所の判決 | 貸主は立退料200万円を払うこと、借主は立ち退き料200万円と引き換えに退去に応じること。 |
この判例では、立ち退き料は引越料にプラスして、賃料2年分の額が妥当であるとして200万円と判断されました。
立退料360万円と判断された事例
以下は、賃料4万6,750円の木造建物の立ち退きに対して、平成29年5月11日に東京地方裁判所が立退料360万円を言い渡した事例です。
貸主の言い分 | 築75年を経過して老朽化が進んでいる。賃料が安く、敷地の価値が有効利用されていない。 |
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借主の言い分 | 安い賃料前提で生計を立てていたため、転居が難しい。自身に重い病気や同居人の家族に障がいがあり、近隣の医療機関への通院などが必須。 |
裁判所の判決 | 貸主は、当初より立ち退き料3割減額の360万円を払うこと。借主は立ち退き料360万円と引き換えに退去に応じること。 |
3割減額の根拠は、建物の老朽化が進行していること、また、賃料が4万6,750円と一般的に安い賃金の上、長期間住んでいたことから貸主より借主のほうが利益を得ていたと判断したためです。
立ち退き料の内訳
立ち退き料は、基本的に、下記の引っ越し代や新居の契約に必要な仲介手数料、礼金、家賃差額分、そして慰謝料などが含まれます。
引っ越し代
立ち退きをする場合、当然ですが引っ越しをしなければならないため引っ越し代が必要です。ただ、実際の引っ越し代は、立ち退き前には分からないため家族構成等を考慮して、一般的にかかる費用を借主が貸主に請求することが多いです。なお、引っ越し代の相場は、下記をご確認ください。
参考 価格.com – 引越し費用・料金相場引っ越しの総額費用の目安
引っ越し代は皆さんご存知の通り、通常期と繁忙期によって異なります。家族構成以外にも、引越し日も考慮して金額を判断しましょう。
仲介手数料、礼金
仲介手数料や礼金なども新居の契約で必要になるケースが多いですよね。一般的には、新居でかかる賃料を予測して、その1、2ヶ月分が立ち退き料に含まれます。
なお、敷金は立ち退き料には含まれません。既にご存知の方もいるかと思いますが、原則として敷金は、貸主から借主である「あなた」に返ってくるためです。
家賃差額
立ち退きを機に生活環境を大きく変える場合は別として、同じような条件で今の物件に近い所となると、物件の選択範囲は限られてしまいますよね。
選べる範囲が限られるということは、その分、家賃が今より高額となってしまう可能性が高いということです。
そのため借主の生活保証のため、家賃差額分が支払われるのが一般的です。
なお、支払われる期間については1~3年分が一般的で、借主側の正当事由が強い場合は長く、弱い場合は短くなります(貸主側の正当事由が強い場合は短く、弱い場合は長くなります)。
ただ、家賃差額分が支払われるのを良いことに、明らかに家賃の高い物件に住む場合などは、認められなかったり、他の移住先を提案されたりすることもあるので注意しましょう。
慰謝料
立ち退きは、貸主側にも依頼しなければならない事情がありますが、これまで住んでいた借主であるあなたにとってみてたら、引っ越しの予定がなかったのに引っ越さなければならず、相応の負担がありますよね。
そのため、貸主側の立ち退きの事情(正当理由)が弱い場合は、立ち退き料として一定の慰謝料が支払われる傾向にあります。
なお、どのくらいの金額が慰謝料として支払われるかは、貸主側と借主側の正当理由の比重によって異なります。
立ち退き料の交渉方法
立ち退き料の支払いは、あなたに立ち退きを納得させるための手段であり、義務ではありません。
そのため、正当な理由の有無にかかわらず、もしあなたが立ち退き料の支払いを請求していないのであれば、立ち退き料がもらえない場合もあります。
立ち退きの理由が貸主にあるにもかかわらず、立ち退き料がなかったり、立ち退き料に不満がある場合は、あまり遠慮せず交渉することが大切です。
自分で状況を説明して交渉
立ち退き料は、住んでいる人それぞれの事情によっても異なります。
賃貸物件でよくあるのが、「他の人はこの料金で承諾してくれているから同じ金額の立ち退き料しか払わない」と言われるケースです。
ですが、貸主側にも立ち退きの理由があるように、借主側にもその物件に住んでいる理由があり、その理由がアパートに住んでいる人、みんな同じということは稀です。
例えば、そのうち引っ越しをするつもりで住んでいる人と、長期的に住むつもりで今の物件に住んでいる人とでは、立ち退きの負担も異なりますよね。
また、同居人が病気だったり自分自身に疾患がある場合は、程度にもよりますが引っ越しに負担がかかるはずです。
こういった事情は、大家さんに話さない限り「みんな同じだから」という理由で片付けられてしまいます。
まずは、自分の状況を今一度考えて、立ち退き料をもらわなければいけない理由をきちんと説明しましょう。
弁護士に依頼
当事者同士の話し合いで解決できればよいですが、中には、貸主側が話を聴いてくれなかったり、すでに弁護士を雇っている場合もあります。
上記のような状況では、借主側に有利な状況に持っていくのが難しいため、弁護士に依頼するのも手です。
依頼料や成功報酬などで金額はかかりますが、プロに依頼したほうが最終的に立ち退き料を多くもらえる場合もあります。
弁護士法人ライズ綜合法律事務所では、立ち退き料0円から235万円になった事例や、立ち退き料20万円から260万円になった事例など、立ち退き交渉に対して多くの実績があります。
相談は無料で全国で対応しているので、一人で悩まれている方はぜひ利用してみてください。
参考 突然の立ち退き要求にも弁護士が即対応弁護士法人ライズ綜合法律事務所
賃貸の解体で立ち退き依頼についてのまとめ
立ち退きに明確な理由がある場合、「立ち退きに応じない」というのは一般的には難しいです。
ただし、立ち退き料に関しては、基本的に契約違反などで入居者に過失がない場合は、払ってもらえることがほとんどです。
立ち退きを依頼された場合は、まずは相手側の立ち退き理由を確認して、必要に応じて立ち退き料の交渉をしましょう。
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